logo Go back

四国林道ジムニーの旅~前偏

2017.05.08
APIO(アピオ)

四国林道ジムニーの旅~前偏

 

文/河村 大 写真/山岡和正

唯一無二のクルマ

この10月で満14歳を迎えたジムニーJB23。正直言ってここまで “変わらない” クルマも珍しい。現行車では15歳のトヨタ・センチュリーに次ぐ長寿命のモデルだが、片や日本を代表するショーファードリブンカー、片や本格四駆の軽自動車と、似ても似つかない位置づけだ。サイズも価格も天と地ほど違う両車だが、他に選択の余地がない「唯一無二のクルマ」という面では一致している。

ではジムニーの何が唯一無二なのか? なぜ14年も経たクルマが月々1000台ペースで売れ続けているのか? 日常の使い勝手はお世辞にも褒められたモンじゃない。今どき、これほど後席の使いづらい軽乗用車はないし、燃費だってアルト・エコやミラ・イースがリッター30kmを主張する時代にその半分もない。グリーン税制なんて恩恵は逆立ちしたって利用できないのだ。

じゃあ、四駆システムで売れているのか? 雪道に強いからか? いやいや。今や軽でもほとんどの車種に四駆が設定されている。本格的な四駆でなくても除雪された道なら問題なく走れてしまう。アスファルトだらけになったこのニッポンで、パートタイムの直結四駆だけが活躍できる場面なんて、本当に限らていれるのだ。

のっけから、まるでジムニーのネガティブキャンペーンをしているようで恐縮だが、それは僕の意図するところじゃない。4x4 & SUVガイドブックのAPIOのページを訪ねて来た以上、ジムニーに興味津々な気持ちはよく分かるが、マイナス要素は知っておいて損はない。

もっと突っ込んでみよう。最近は軽でもトラクションコントロール(横滑り防止装置)が選べるようになり、雪道ではコンピューター任せ、クルマ任せでも安定して走れるようになってきた。が、ジムニーにはその機能もない。ドライバーには必要な時、必要な場所で四駆スイッチのオン・オフを判断する力が求められる。そんなアナログでプリミティブなクルマのドコがいいのか? 

それは、林道へ行けば分かる。ひとたびオフロードに足を伸ばせばジムニーは水を得た魚のよう。それこそ唯一無二の存在であることが理解できる。ニッポンの林道を走らせれば、こんなに素晴らしいクルマは他にない。僕はそう信じている。

ジムニー文化論

そして同じように、ジムニーで行く林道ツーリングを誰よりも愛し、ジムニーをして「ニッポンの文化である」と喝破しながら、ブログ等で日夜「ジムニー文化論」を展開する御仁が神奈川にいらっしゃる。ご存じ 河野仁氏。今をときめくAPIOの社長さんだ。

ジムニー文化論、チョイと気になるでしょ? というワケで氏の『アピログ
http://plaza.rakuten.co.jp/apioblog/』からチョイと引用させていただこう。
……さて文化文明論は各論いろいろあるが明確な定義はなくいろいろな定義が混在する。あまり広がりすぎてもワケワカだが今日は

「文明」・・・人間の生活に直結したテクノロジー
「文化」・・・生活の役に立たない事

というごく一般的な定義で考えてみた。この定義で考えると「文明」にあてはまるクルマは、ミニバンはじめほとんどのクルマが文明の利器としてのクルマと言える。
一方で「文化」を生活の役に立たない事(もちろん全く役に立たないという意味ではない)という定義で考えると、この要素が強いクルマとして日本車ならば2ドアで以前は幌車まであったジムニーがあてはまる。他にもマツダのロードスターはじめ各種スポーツカーなど……

……私が電気メーカーにいた時代、技術力と品質で日本のメーカーは遙かにリードし、どんなに真似されてもかなりのアドバンテージがあると信じていた。だが結果はわずか10年15年のうちにすっかり状況が変わってしまった。
電気メーカーの世界と同じことが自動車メーカーにも起こる可能性がある。文明としてのクルマは技術革新によってやがて追いつき追い越せれてしまうかもしれないが、欧米のメーカーに日本のメーカーがなかな追いつこうにもどうやっても超えられない壁があったとすればそれは自動車文化であり……

とまあこんな具合。要は、生活に直結したクルマだけがエライのではない。無駄を楽しむ力。絵空事を具現化する力。夢をカタチにする力こそが今のニッポンの自動車メーカーに必要なことなんじゃないか? ジムニーの魅力を今一度よーく見直せばニッポン独自の自動車文化が見えて来るかもしれない…と氏は語っているのだ(チョイとばかし私の意訳が入ってますが)。

そう。とにもかくにも、ジムニーはニッポンの文化なのだ!

そんなことをつらつらと考えていたとある昼下がり。件の河野さんから仕事の依頼があった。「ジムニーを林道に連れていって、改めてよーく味わって見て下さい。デモカーは何日使ってもらっても、どこを走ってもらってもいい。APIOのカスタムパーツの紹介なんてどうでもいいから」。なんと。普通、タイアップ記事にこういうオーダーはあり得ないのだが。デモカーはダシでいいとおっしゃる。唯一のオーダーは「一緒に行きましょう」だった(笑)。思い立ったら吉日。北海道でも九州でもモンゴルでもすぐ走って行ってしまうこの身軽さ。このパワーに若輩者の私も「負けてはいられない」といつも勇気をもらっている。

 

再び四国の大地へ

「それなら林道の宝庫、四国へ行きましょう! 」。どちらから言うでもなく、目的地はあっさり決まった。ええ!? 林道取材でわざわざ四国!? と目を丸くされる方もいらっしゃるだろうが驚くにはあたらない。三度の飯より林道(と温泉)が好きな我らにしてみればどうということはない。いや、趣味も実益も仕事もごっちゃになっているんじゃあ…と後ろ指さされることもままあるが…。

実は私も河野さんも2010年の秋に日本最長の林道、徳島の剣山スーパー林道を走っている。その時の魅力が忘れられず、再び四国の大地を駆け抜けたくなった、というのが正直なっところ。ただしこの時私は現行型ジープ・ラングラーでの参加。往復1800kmを越える道のりもなんとかこなせたが、ジムニーで走っていた河野さんには心の中で同情していた。随分お疲れだったでしょう、と。


「日本一長い林道」徳島の剣山林道を行くジープ(河村)とジムニー(河野さん)。その後ろはAPIO尾上会長のロシア製バイク「ウラル」サイドカーだ。淡路島から四万十へ、大人数で四国を横断したこのツーリングは一生忘れられない旅となった。

ところが今回は私も軽ジムニー。河野さんは白ナンバーのジムニーシエラ。この2台でジムニーの酸いも甘いも味わい尽くしちゃおう! という企画だ。私も他人事ではなくなった。旅の友は APIOコンプリートジムニーの中核モデル “TS4” 。河野さんはSSER主催のレイドトレックタクラマカン用に造った1300ccジムニーシエラ。基本は “湘南エディション” と思ってもらえばいいだろう。

 

あっという間の瀬戸大橋

西日に光る瀬戸の海。駆けるは小さな軽ジムニー。車内に広がる潮の香がこの日の宿が近いことを告げていた。東京を明け方に出発。新東名から新名神づたいに中国、山陽道と乗り継ぎ瀬戸大橋へ。40・のタンクに2度給油したが700・はあっという間。660・で? と思うかもしれないが意外や意外、疲れる間も無く一気に走ってしまった。シートがレカロ(※:脚注参照)だったこともあったが、背が高く見晴らしのいいジムニーは案外ストレスと無縁だったのだ。実を言うと帰りの道もあっという間。思い返してみれば “軽自動車故の旅疲れ”なんてものはただの思い込み。JB23はレカロさへあればどこへでも行けることがよ~く理解できた。

【※脚注】
※レカロは新車コンプリートカー”TS4″にバンドルされている装備ではないが、APIOでオプション装備として取り扱っている。

旅程は3泊4日。行き帰りの移動に1日ずつ。愛媛は石鎚山東南に広がる林道群を目指し、四国カルストの眺望を手土産に龍馬脱藩の道で大洲に抜けようという剛気な計画だ。林道を飽きるまで走り温泉で体を癒やす。そのキーワードに当てられてしまった面々と2台のジムニー。それがこの物語の主人公だ。

ストーリーテラーは私。生涯最も遊び倒したのがジムニー! と断言できる四駆専門誌の編集者。カメラマン氏はBMW X5とジムニーを車庫に並べるアウトドアズマン。これにクルマ&バイクのフリーマガジン『ahead』の編集者若林さんとAPIOの河野さん、合わせて4人が2台のデモカーで参加した。

つづきは後編へ