logo Go back

ジオランダーI/T-S

2017.04.26
YOKOHAMA(横浜ゴム)タイヤメーカー

日進月歩の走りを見せるSUV専用スタッドレス

スタッドレスタイヤに求められる性能は多い。基本は氷雪路のためのタイヤだが、それに特化させると、オンロードの剛性や耐久性、ウェット性能が落ちてしまう。ジオランダーI/Tは伝統的にそれらの性能が上手くバランスされている。
 
登場は1998年。その後、’01年、’03年、’09年とモデルチェンジを繰り返し、現在に至っている。SUVタイヤの世界でジオランダーは比較的モデルチェンジサイクルの短いブランドだが、さすがに11年間に4つもの製品を投入したのはI/Tしかない。
 
理由は単純。スタッドレスの世界は技術が日進月歩、立ち止まっているとどんどん時代遅れになってしまうから。特にゴムのコンパウンド(化合物)は進化の度合いが著しい。タイヤが黒いのは補強のためにカーボンブラック(炭素)が配合されているから、という話なら皆さん良くご存じと思うが、現代のタイヤはそんなに単純なものではない。
 
特にスタッドレスのゴムは低温で柔らかくネバり気がなければ路面に密着できず、かといって常温で柔らか過ぎたり溶けやすかったりすると操安性や耐久性が問題になる。それ故、ゴムにシリカを配合させたり、分子構造をより強いものにしたりと、ミクロの世界に最新の技術が投入されて行くのだ。
 
さらに近年はスタッドレスタイヤの一般化や温暖化の影響でミラーバーンが増える傾向にある。「氷」をどう攻略するか、という命題がさらに大切になっているのだ。そのためメーカーはトレッドゴムに水を吸い込む気泡を与えたり、クルミの殻やガラス繊維を練り込んだり、様々に改良しながら氷上性能のアップを狙っている。
では新モデル「I/T-S」のコンパウンドにはどんな特徴があるのか?
 
①ブラックポリマーの採用
 通常、スタッドレスタイヤはオイルが抜けるにしたがってゴムが硬くなるが、このオイルの代わりに、より抜けにくいブラックポリマーを配合。ゴムの柔らかさが長期間持続するようになった。また、ゴムが柔らかくなることで氷表面に密着しやすくなった。
 
②水を吸う3つの素材を配合
 タイヤと氷の間にはミクロな水膜が生まれ、これが滑る原因になる。ならば水を吸い取ってしまえ、というわけでヨコハマはゴムの中に吸水性に優れる素材や気泡の元を配合している。新型になってこの素材が2種類から3種類に増え、より多く水を吸収できるようになった。
 
③配合技術を分子レベルで進化させた
 ゴム分子や補強材をギュッと凝縮するように配合。分子レベルで不要な動きを抑え、硬さとしなやかさを両立。これにより耐摩耗性やウェット性能も向上している。
これに加え、トレッドのデザインも一。さらに氷雪路に強くなった。具体的には以下のような特徴がある。
 
①トレッド中央部の接地面積を増大
 正面から見て縦に7列のブロックが配置されているが、このうち中央3列を接地面積重視ブロックとし、氷に対する絶対的なグリップ性能を向上させた。併せてサイプも増量した。
 
②サイプのノコギリ効果を最大限に
 サイプとは細かな横溝のことだが、これが接地面でノコギリ状に変形しエッジ効果を発揮する。ただしブロックの剛性が低くなることからオンロードの操安性に弊害をもたらす。これを、サイプ形状を工夫することで克服。タイヤの表面に隙間無く配置することに成功した。
 
③溝やエッジを効果的に配置
 積雪路やシャーベット路ではマッドタイヤのように横溝やブロックの角で雪を掴む性能が大切になる。これを外側2列のブロックに効果的に配置。降り始めの雪や春先の水っぽい雪にも強くなった。ウェット性能も両立した。
 
これらの技術により、氷上の制動性能は前モデルから30%も向上。トレッドゴムも柔らかくなり、低温域での性能がさらに良くなったにも関わらず、「耐摩耗性」と「耐久性」もアップした。
 
いずれにせよ、ジオランダーI/Tはモデルチェンジを繰り返す度に劇的な性能アップを果たしている。もしあなたが古きスタッドレスしか知らないのであれば、その性能差に驚くことは間違いない。
 

なんとトレッドに稲妻が走っている。ブロックパターン全盛の中で、センターにこれだけクッキリした極太のリブを持つスタッドレスは珍しい。超の付くクールな表情だ。M/T同様方向性のあるパターンだが、SUV用スタッドレスではこれが主流だ。


中央3列に接地面積重視の極太リブを配置、細かなサイプを増やしている。これが氷や圧雪路に効果的。外側の2列(左右で4列)に横溝とエッジを多数配置、積雪路やシャーベット路で活躍する。排水性も6本の溝で確保している。一見、グラフィカルでデザイン優先に見えるが、よく見れば各部の効果が計算し尽くされていることが理解できる。


小型のSUVなら乗用スタッドレスにサイズの合ったものを見つけることができるかもしれない。でもSUVには専用ブランドをお勧めしたい。ジオランダーI/Tも乗用スタッドレスの技術を元にしているがSUV用にチューンしてあるのだ。写真はその一例。トレッドゴム表面の吸水ゴムの下に高剛性ゴムを配し、SUVの重量に対応させている。


吸水ゴムのしくみ。上三枚は全て顕微鏡写真だが、左から吸水ハニカムシリカ、マイクロ吸水バルーン、吸水カーボンⅡと言われるもの。いずれも、空洞や表面張力の効果で氷上の水膜を吸い取る。ひとつひとつは微細な働きだが、タイヤ全体に100億個単位で配合されるのだ。


タイヤ表面でジグザグに見えるサイプも、ゴムの中ではこんな形をしている。上がピラミッドサイプ、下がトリプルピラミッドサイプと呼ばれるもので、このような形状にすることでゴム同士のもたれかかりを強め、トレッドブロックの剛性をアップさせている。


圧雪路のスラロームテスト。前モデルとの比較を行った。一定速で等間隔のパイロン間を駆け抜ける、というものだったが、前モデルは時速40km/hで破綻したが、新モデルはその領域でもコントローラブルだった。ただし、これは外から見て違いが表面化した速度であって、実際にはもっと低い速度から性能の差は歴然だった。


氷上が滑る理由。それはアイススケートと同じ。接地面で発生する水膜がμを劇的に下げてしまうからだ。滑らないようにするには水を取り去り、氷に密着させねばならない。と言うわけで、ヨコハマは吸水ゴムを採用した。新旧I/Tの制動距離の差は30%にも及ぶ。


低温で最大の性能を得られるよう設計されるスタッドレスのゴムは、常温でμの低い路面、つまりウェット路に弱い傾向がある。この場合、サイプの変形もグリップには悪影響を及ぼす。つまり、氷上性能とウェットグリップは相反する性能なのだが、新しいI/T-Sはこの辺り、ゴムの剛性アップや溝面積の確保などで上手くまとめて来ている。ウェット路も不安はない。


もともとオンロード性能に定評のあったI/Tだが、新型になってさらに一歩オンロードタイヤに近づいた。無茶な走りは禁物だが、コーナリングで腰砕けになるようなことはない。ちょっと乗り心地の柔らかなオンロードタイヤ、といった感触である。そうは言っても絶対的なグリップは劣るので、夏は夏タイヤに履き替えよう。