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4x4MAGAZINE Web教本シリーズ
ゼロから覚えるウインチ・テクニック
オフロードの “リーサルウェポン” をマスターせよ!
基本テクニックと安全への気遣いを覚える! 前回の “マスター巻き” はご理解いただけただろうか? 今回は実際にアンカーを取ってウインチングを行う。その手順と注意点を3部に分けてお伝えして行こう。 オフロードでは主に、①ウインチ装着車が難所を進むための “自走系”ウインチングと、②スタックしたクルマを助けるための “レスキュー系”ウインチングがあるが、ここでは “自走系” で話を進めて行こう。具体的には「タイヤのトラクションだけでは登れない坂を登る」「落ちかけた崖からリカバリーする」あるいは「ぬかるみでのスタックから脱出する」といった場面を想定して欲しい。
撮影/山岡和正 文・編集/河村 大 取材協力/トレイル
手始めに “アンカーを取る” という用語を覚えて欲しい。
Ancor とは 錨(いかり)のこと。最近では中央自動車道笹子トンネルの吊り天井を留めていた “アンカーボルト” なる言葉をよく耳にするが、本来は “力をかけて引っ張ってもビクともしないもの” を指している。
日本のオフロードでクルマをも支えられるほど丈夫なもの、と言えばこれはもう九分九厘 “木” しかない。地中深くに根を下ろした木には素晴らしい引っ張り耐性があるのだ。
他に、土の中に錨のようなアンカーを埋め込んだり、大岩をアンカーに取る方法もあるが、ここでは専ら木を使った方法で解説して行く。
ただし、アンカーを取るには木を見つけるだけでは役者不足。
他に「最低限これだけは必要」という道具がある。 それが “ストラップ” と “シャックル” だ。

●ツリー トランク プロテクター(写真上)
まずはストラップから。見ての通りナイロンを幾重にも編み込んだ頑丈なものだが、これはただのストラップではない。もともとオフローディングで使うストラップには「スタックしたクルマを引っこ抜く」「ウインチ作業時にワイヤーの延長として使う」
など様々な用途があるが、写真のストラップは “ツリー トランク プロテクター”
と呼ばれるもの。文字通りTree(木)Trunk(幹)をプロテクトするもので、真ん中部分がより太くなっているのが特徴だ。
ワイヤーを直接木にかけたらどうなるか考えて見て欲しい。細いワイヤーが幹に食い込み、深く傷つけてしまうことは容易に想像つくだろう。そのせいで木が壊死してしまったら…自然を愛するオフローダーの名が廃ると言うものだ。
でもこの ツリー トランク プロテクター を使えば圧力が大幅に分散される。樹皮を傷つける可能性がずっと少なくなるのだ。自然保護の観点から、これは外せないアイテムなのだ。
●シャックル(写真下)
もうひとつはシャックル。これはオフロードに限らず、ワイヤーを玉掛けするような作業では欠かせない連結金具だ。
U(ユー)字型の金具に、I(アイ)字型のボルトを組み合わせた構造から「U字シャックル」あるいは「Uシャックル」と呼ばれている。
ユーとアイ。英語でアナタとワタシを示すことから、その昔 4x4MAGAZINE の読者投稿欄が “ユーシャックル・アイボルト” なんてタイトルだったりしたのだが、それを覚えてらっしゃる方はよっぽど熱心なファンだろう。
余談はさておき、写真のシャックルはU字部が弓なりに広げられた構造で、世間一般では バウ=Bow(弓)シャックルと呼ばれるもの。Uシャックルより高価になるが太いストラップを数本通すなどの場合はこちらのほうが案配がいい。
いろんなシーンで活躍してくれるのでサイズを幾つか揃えておくと便利だ。

ただし、シャックルはサイズや材料に応じて許容荷重が異なり、その数字が本体に彫り込まれている。それを超えると上の写真のように「アイボルトが曲がって回せなくなる=抜けなくなる」などのトラブルに遭うのでメインで使うものは耐荷重の高い、信頼性のあるものにして欲しい。
また、力をかける向きが定まっており、アイボルトの閉め方にも正しい方法がある。それについてはまた後のパートで解説しよう。
では実際の手順に入ろう。ほとんどは映像で表現してあるが、文面のほうが詳しく記してある。
①ウインチドラムをチェックする
ドラムにワイヤーが綺麗に巻かれているかチェックする。ワイヤーがユルユルだったり、片側に寄った “片巻き” の状態で巻き始めると “乱巻き” の原因となり、結果としてワイヤーを傷めてしまうからだ。この辺りは 第一話:ウインチのセッティング をご覧いただきたい。
②しっかりしたアンカーを探す

いくら強力なウインチでもアンカーが不安定では力を発揮できない。
アンカーにはクルマの荷重に耐えられるくらいの木を選ぶことが大切だ。太さはもちろん、葉が青々としているかもチェックする。万一腐っていてヒルクライム中に木が折れたり倒れたりしたら大変だ。
もちろんアンカーを行きたい方向の延長線上に取ることも大切。あまり斜めから牽引するとウインチに逆らうようにタイヤで進路を修正せねばならないし、ドラム内が “片巻き” になって距離が稼げなくなるからだ。
それとよくありがちなのが「あともう1m前進できたら自走で脱出できたのに」というパターン。この場合、もう少し遠くに別のアンカーを取り直さなければならない。その辺りをよーく考えてアンカーを選んで欲しい。
また立木ではなく別のクルマをアンカーにする場合は動かぬよう輪留めをしておくことも大切だ。輪留めはその辺りに落ちている大きめの石でも十分に用を足してくれるだろう。
③アンカーまでワイヤーと道具を持って行く

まず、ワイヤーを手動で引き出すにはウインチドラムのクラッチをフリーにする。そしてワイヤーを引っ張りながらアンカーポイントまで歩く。もちろん、ストラップとシャックルも持って行く必要がある。
ポイントは効率だ。
ウインチングを決意するような場所だけに泥は深く、坂は急だろう。足場は悪く、何度も往復したくなるような所ではないはずだ。それを1度で済ますにはどうすべきか?

この場合、片手はワイヤーを引っ張るのに必要。もう一方の手も難所を進むには必要だ。足場に手をかける、木の根っこを掴みながらよじ登る…等々。つまり「ストラップとシャックルを持ちながら両手がフリー」な状態をつくればいい。
オススメなのはストラップの両端シャックルで止めて車載しておく方法。
これなら別々に探し出す必要がないし、写真のようにタスキがけにすることで両手がフリーになる。ベテランともなれば車内からアンカーの目星をある程度付け、全ての作業を一度に済ませてしまう。
もちろん、ワイヤーを扱う手には必ずグローブを! ワイヤーにささくれがあっても肌に届かぬくらい頑丈で、いざという時外しやすい大きさがいい。
④アンカーにストラップを巻く

アンカーポイントに着いたらストラップ(ツリートランクプロテクター)をかける。間違ってもワイヤーを直に巻いてはいけない。これは自然と共存するオフローダーとして最低限のマナーだ。
そしてストラップは中途半端な高さにかけるのではなく木が一番踏ん張れるところ、つまり根元にかける。この時ストラップが捻れていないかチェックすることも大切。より慎重を期すなら木とストラップの間に毛布や段ボールなどを挟み込むことで弱い樹皮でも保護することが可能になる。
そしてウインチを背にしながらストラップの両端が等長になるよう引っ張る。「どっちかが多少長くてもいいだろう」と適当にセッティングするとストラップの片方だけに牽引荷重が集中する可能性があるからだ。下手をすると樹皮も傷ついてしまう。
当たり前だが、ストラップは左右均等に力がかかった時に最大の耐性を発揮できるのだ。
実はここに、ベテランでもよく陥っている誤りがある。幹にストラップをぐるっとひと巻きしてしまうやり方だ。左右のストラップにかかる荷重は、その長さが1cm違っても凄まじい差になる。ひと巻きして固定することで左右の力の差を調整する動きを完全に封じ込めてしまうのだ。間違っている人をみかけたら、ぜひ助言してあげて欲しい。
⑤ワイヤーを繫ぐ
仕上げにワイヤーフックを繫ぐ。ここで登場するのがシャックルだ。ストラップ両端の輪にシャックルを通し、そこにワイヤーフックを繋げるだけ…と言いたいところだが実はとても大切な注意点がある。

まずは上の×の写真を見て欲しい。
シャックルの横方向に引っ張り力がかかるようになっている。が、これでウインチングすると恐ろしいことになる。U字金具が横からの力で変形し、アイボルトが抜けなくなってしまうのだ。そんな時はアイボルト先端にある穴にドライバーを突っ込んで強制的に回したりするものだが、ドライバーもただでは済まない。
正しい使い方は下の写真。
ポイントはふたつある。まず、引っ張り力が縦にかかるように使うこと。そしてアイボルトに優しくすること。
例えばフックを逆側に、アイボルトにかけたとしよう。フックは金属故に力点が小さく、一点に力が集中しやすい。おまけにアイボルト上のどこで安定するかわからない。シャックルに斜めの力をかけてしまう可能性があるのだ。もちろん、金属フックをアイボルト側に繫がねばならない場合もあるが、そこは臨機応変に対応して欲しい。

そしてアイボルトの締め方。
「手で最後まで回してから1/4回転ほど緩める」が正解だ。
元々シャックルの雄ネジと雌ネジは一般のボルト・ナットよりユル~く作られている。そしてピッタリ締めなくても性能を発揮できるようになっている。したがってピッタリ締めて牽引後外しづらくなるより「外すときも手回しできる」ことを優先。そのために “やや緩めておく” のだ。
もちろん、アイボルトが手で締められないようなシャックルは論外。買い換えたほうがいい。
最後に、フックの向き。地面に対して上向きか下向きか? 諸説あるが、ここではウォーンの正規代理店 “トレイル” 代表の廣瀬さんの見解をお伝えしておこう。何となれば廣瀬さん、本場アメリカはルビコンの聖地でウォーンの担当者と議論を繰り広げ、廣瀬さんの意見に対して「間違いと言える根拠がない」とまで言わしめたのだから。

結論はこうだ。
まずフックが地面から離れている時はフックを上からひっかける。でもフックが地面に近い時は写真のようにフックを下からひっかける。牽引中にフックが路面の障害物にひっかかったら予期せぬトラブルが起こる可能性があるからだ。
アンカーのすぐ脇でフックが移動する距離なんてないも同然なのに…というのは素人の考え。補助ワイヤーの連結など、上級者のテクニックではフックが地面を移動することも多いのだ。とにかくこの原則は頭に入れておいて欲しい。
⑥ウインチング前にテンション出し

アンカー取りの作業が終わったらいよいよウインチング開始だ。
でもその前に最後の確認。ウインチを少し巻き、ワイヤーが軽く張るまでテンションをかけてみる。軽く、と言ってもクルマが僅かに前のめりになるくらいが目安。この状態で各部の連結やアンカー、ドラムの状況を目視する。
恐らく多くの場合はワイヤーがウインチに真っ直ぐ吸い込まれず、斜めになっているはず。ここであまりに斜め過ぎるようであれば、潔くアンカーを取り直そう。
また “片巻き” を覚悟するにしても「真っ直ぐ牽くよりドラム内に余裕がない=ウインチングの距離がかせげない」ことも頭に入れておこう。
⑦いよいよウインチング開始!
ここからは第二部及び第三部へ読み進めて欲しいのだが最後にひとつだけ。タイヤの駆動アシストについてお話しておきたい。
ウインチングはウインチの力だけで前進するのが基本だ。いかに極低速ギアを備えた本格四輪駆動車とはいえ、ウインチの前進速度に比べればタイヤの回転速度のほうが速い。AT車ならともかく、マニュアル車ではウインチとタイヤの前進を協調させるのが難しいのだ。
また多くの場合、ウインチに任せておけばよかったのに「タイヤを空転させたために地面を掘ってしまい、より大きな抵抗を作り出してしまった…」などという失敗につながりやすい。
おまけにタイヤを空転させれば縦方向のグリップだけでなく横方向のグリップも失う。
そうすると「せっかくキャンバー(斜めの地形)に張り付きながら進んでいたのにタイヤを滑らせて谷側へ落ちてしまった…」なんていう結果になりかねない。素人がアクセルを無駄に使うより、ウインチだけに任せてしまったほうが効果的なのだ。
もちろん例外もある。平地で後ろから押してもビクともしないクルマでも、四つのタイヤを直接手で回せば前進させられるように、段差などを超える力はタイヤそのものを回すほうが効果的。その瞬間に駆動アシストを与えられるベテランなら、ウインチの負担を減らすことも可能。
あるいは泥場でウインチングをきっかけに前進し始めたクルマがそのままタイヤのトラクションで少しずつ進めてしまう場合もある。
ただし逆に掘ってしまうことのほうが多く、仮に前進できたとしてもたるんだワイヤーがドラム内でユルユルに巻かれてしまう、という問題が残る。
いずれにせよ。メインはウインチ、タイヤの駆動力はサブのサブと考え、むやみに駆動力をかけないほうが無難なのだ。