輸入車の魅力は様々だろう。
お国柄ゆえの大きなスケールを感じさせるアメリカ車、ティフォーシーたちの熱い血を呼び起こすフォルムと走りのイタリア車、エレガントな内外装を纏うフランス車など、優等生的な日本車にはない個性溢れる魅力を覚えさせてくれる。
では、日本で最も人気のあるドイツ車の魅力は何だろう?
「質実剛健な造りと安心感のある乗り味」とよく言われるが、その魅力を成り立たせている要素のひとつに、強い制動力を持ったブレーキが挙げられる。今回の取材車であるフォルクスワーゲン・パサート ヴァリアントもそんな一台だ。
ラゲッジスペースに荷物をギューギューに詰め、制限速度無制限のアウトバーンで時速200kmを超える猛スピードで走ることを想定され造りは、日本ではオーバークオリティーとも言えそうな強大なストッピングパワーを備えている。ドイツ車の「しっかり止まる」ブレーキは、もっとも重要な魅力のひとつだとも言えよう。
心強いブレーキを搭載しているドイツ車ではあるが、“洗車” をテーマに考えてみると、お世辞にも優秀とは言えない。ボディーは綺麗なのにホイールが真っ黒で、全体的に薄汚れた車両を見る機会が多々ある。もしもキレイ好きな日本人がドイツ車オーナーになると、ブレーキダスト量の多さに落胆するのではないだろうか。
ディスクブレーキは、タイヤとともに回転する円盤状のブレーキディスクが、ブレーキパッドで押さえられる時の摩擦により制動力を発揮させる。日本車のブレーキは、おもにパッドを擦り減らして制動力を生み出す造りとなっているのに対し、ドイツ車のブレーキは、パッドだけでなくディスクも容赦なく擦り減らすようにして制動力を高めている場合が多い。ここが日本車とドイツ車との大きな違いだ。
制動力だけでなく、ランニングコストなどトータルで開発される日本車に対し、ドイツ車は何よりも「止まる」ことが第一義だと考えられているのだ。それゆえ、ブレーキダストでホイールが汚れることなど、重要視されていない。ブレーキをかけるたびにパッドはもちろん、スチール製のディスクも削られて鉄粉が飛散するから、当然の如くホイールは直ぐに真っ黒となる。
パサートのホイールの場合、市街地を100kmも走ればうっすらと汚れ始め、4~500km走れば目を覆いたくなるほど真っ黒になる。月に1,000km走るとしたら、愛車を綺麗に維持するためには1ヶ月に2回以上洗車しなければならない…。
「強い制動力はそのままに、ダスト量が少ないブレーキは存在しないものなのか!?」。これはキレイ好きなドイツ車オーナーの切実な願いだろう。
そこで、ブレーキパーツの販売・企画・開発を行うDIXCELさんにご協力いただき、2007年式フォルクスワーゲン パサート・ヴァリアントに同社の製品を取り付た。「ダスト量」「制動力」「耐久性」について、4年半に渡る長期テストの結果をお届けしよう。
TEST Report 1:2015年11月
ブレーキディスク&パッドを交換
作業はディーラーに依頼
今回はブレーキディスクとブレーキパッドの両方を交換した。パサートは初度登録から9年目を数え、走行距離が8万kmを超えた、言わばブレーキ換え頃のクルマである。前回は4万km走行後に、ブレーキパッドのみの交換をディーラーで実施した。
ディーラーにあるスキャンツールを通さないとブレーキ交換が出来ない車両が増えてきたが、9年落ちのパサートも例外ではなく、自分ではメンテナンスが出来ない。それゆえ、一般的にはディーラーで作業を行ってもらうことになるが、純正品よりもダスト量の少ないブレーキを選びたい。そんな悩みをサービスフロントに相談してみると、純正以外のパーツも装着できるとの嬉しい解答をもらった(一般的にディーラーでは純正品以外取り扱わないイメージだが、アフターパーツの装着にも相談に乗ってくれる場合も少なくない!のだ)。
それならば制動力を落とさずに純正品とほぼ同じ予算で、かつダスト量の少ないアフターパーツを装着したい。その結果、ブレーキディスクにはディクセル製 “PD type” を、ブレーキパッドには同じく同社の “M type” をチョイスした。
選択した理由は3つある。
1)純正品と同等の制動力
純正品の持つブレーキ性能は損なわれない。
2)純正品同等の価格
“M type” パッドは純正品よりも高価だが、“PD type” ディスクは純正品よりもリーズナブルとなるため、ディスクとパッドの合計金額は、純正品とほぼ同じ。
3)純正品よりもダストの発生量が少ない
“M type” パッドはディスクへの攻撃性が少なく、ダストの素となる鉄粉の発生を抑えられる。
ディクセルのブレーキディスク(左)とブレーキパッド(右)。ストリート向けからサーキット仕様まで、使用目的に合わせたブレーキパーツを数多く取り揃えている。
偏摩耗した場合、ディーラーや修理工場を通じて部品交換に応じる『摩耗保証』を2015年末から始めている。
交換前のリアブレーキ(左)。ブレーキディスクの表面には無数のスジ状の溝があり、大きく削り取られたエッジ(赤丸部分)が立っていた(右)。
新品のブレーキディスク&パッド。当然だがブレーキディスクにはスジもエッジもない。
ブレーキディスクとパッドを交換するにあたり、ブレーキフルードも交換した。効果を体感しづらいパーツであるかも知れないが、劣化したブレーキフルードではブレーキ本来の性能を発揮出来ないばかりか、フルードの沸騰によりブレーキの効きが弱くなる「ベーパーロック現象」を引き起こしてしまう恐れがある。
一般的には、車検ごとの交換が推奨されているが、せっかくディクセル製ブレーキに変えるのだから、こちらも同社から発売されているフルードを使用させて頂いた。ちなみに前年11月の車検時に、ブレーキフルードは交換済みであった。
ブレーキフルードの交換は二人作業で行っていた。ブレーキ配管に空気が入らないよう、一人がブレーキペダルを踏み、もう一人が古いフルードおよび気泡を抜く工程を繰り返して行う。
DIXCEL BRAKE FLUID DOT 5.1。交換履歴を記録するステッカーが同梱されている。安全のため、2年に一度は全量交換(1~1.5L)しよう。
作業を終えた愛車を見て、「まるで新車のようだ…」と大満足。ブレーキの露出が多いスポークタイプのホイールを装着していることもあるが、通常の洗車では洗いづらいブレーキがピカピカだと、クルマ全体が若返って見える。
走り始めるとすぐに “M type” の良さを体感できた。これまでは少しでもラフなブレーキングをすると、車体が「ガックン」と前のめりになったのだが、“M type” は「ググッ」と優しく減速させてくれる。ブレーキの効き具合の話ではなく、ブレーキペダル踏み始めの初期制動が穏やかで、その後しっかりとブレーキが効いてくる。もちろん、ブレーキ鳴きなどは発生していない。ブレーキがクルマに馴染む1,000kmくらいまでは慣らしが必要なので、穏やかなブレーキングに徹するが、慣らし運転が終わったあとが楽しみだ。
気になるブレーキダスト量は、明らかに低減した。市街地を約200km走行しても、ダストの付着は全く気にならないレベルにある。100km前後走行しただけでうっすらとホイールが汚れ始めた純正品と比べれば、驚くほどの改善効果だ。
ダストの量が少ないということは、ラクな洗車を意味し、スポンジで軽くなでるだけで充分綺麗になる。もちろん個体差やブレーキのかけ方次第で汚れに違いは出ると思うが、雲泥の差だ。ホイールが綺麗だとクルマも綺麗に見えるので、今後は洗車の回数を減らせるかもしれない。浮いた洗車代で、何か美味しいモノでも食べに行くとしよう!
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